国境まで連続で続くトンネルを抜けても、そこは雪国だった。

長い長い雪との戦いも、ようやく一段落付いた日曜日夜、釣り堀ツアラーは福井県九頭竜川を目指して北陸道を西へ走るのでありました。
新潟県境を越えて富山県に入っても、道の両脇には雪の壁が見えております。毎年この時期にこの道を走りますが、富山県に入ってまで、高速道路の両脇に雪の壁が見られることは、記憶にありません。
今年は明らかに里雪です。パスタイムが魚沼に匹敵する。いや、それ以上の積雪に見舞われたことも、これで納得できるのであります。
ことしの冬の積雪は、いかに暴力的だったか、それは「オヤジのつれない言い訳」に如実に現れております。連続9回、雪の話題。これだけ降雪について話ができると言うことは、それだけ毎日雪が降っていたということ。雪のこと以外、考えを巡らすことができなかったということでしょう。いやー。今年の雪はオオゴトでありました。
そのオオゴトもようやく終わり、(だといいねえー)そろそろ恒例の聖地巡礼に行かねばならんと思ったのであります。
九頭竜川で、どうでもサクラマス釣りをしなければならないと、誰に強制されているわけでもありませんが、なんとなく「ねばならない」気がして、毎夜の除雪に、心技体全て枯れ果てた絞りっカスのツアラーでありますが、とりあえず、重たい腰を上げた次第です。

その夜、釣り堀ツアラーが泊まったのは、福井市内の24h営業の健康ランドであります。日曜の夜だというのに、一人でくつろぐオトーサン方で賑わっておりました。
日曜日の夜は家族が集まって、仲良くお食事をしたりして、家でゆっくりとくつろいだ方が、オトーサンのためだとは思うのです。
家族の団欒。この言葉はもはや死語なのでしょうか、日曜の夜に、オトーサンがくつろげるのは、24h営業の健康ランドしかなかったのです。←そういうこと考えるなよ。
日曜の夜の家庭は、オトーサンにとって、家族の弾劾とでも言うべきか。家庭裁判所のようなものなのでしょうか、いると邪魔にされるのでしょうね。それで行き場をなくして、24h営業の健康ランドに身を潜める。釣り堀ツアラーも、例外ではないのかもしれません。←だから、そういうこと考えるなって。

翌日、釣り堀ツアラーが起きましたのは、7時過ぎでありました。
今朝は寝不足です。というのも夕べ、日曜の団欒を追い出された家なきジジイのおかしなうめき声、仮眠室に横なるときに例外なく「フェー」とか「ウィー」とか意味不明の声を出す、それが彼らの断末魔の悲鳴に聞こえて、そういううめき声が聞こえる度に、ビクッとして目を覚ます。
そういうのを繰り返していたからです。
外は雨こそ降っておりませんが、南からの風が非常に強うございます。風が強い時はキャスティングが面倒くさい。おまけに寝不足で除雪で痛めた腰は完治しておりません。
楽しいはずの九頭竜川初戦を目の前にして、なんだかテンションが低いことを憶えるのでありました。
今ひとつ気乗りがしないのではありますが、福井まで来てしまった以上、サクラマス釣りをしなくては、帰るわけにはいきません。
川の水量は減水気味。雪代もなく、きれいな水色をしております。釣りをするには障害はなにもありません。面倒なことではありますが、釣りをしなければなりません。

てなことで、釣り堀ツアラーは国道8号線の橋より下流で釣りをするつもりで、24h営業の健康ランドを出発したのであります。
健康ランドは、8号線が九頭竜川を渡る橋の近くにあります。その橋まで直行すれば、5分とはかかりません。ですが、釣りをする前に、釣り券を購入しなければなりません。朝のこの時間に確実に釣り券が買えるのは、ここより上流の、五松橋近辺の釣具屋さんであります。
仕方なく、五松橋まで行くツアラーでありました。
五松橋付近の釣具屋さんで日釣り券を購入し、ついでだからと五松橋へ行き、橋から川を覗きました。
五松橋の下から送電線が川を渡る間には、よさそうな流れがありました。しかも左岸には、誰の姿も見られません。
ここからわざわざ8号線まで戻るのも面倒なことであります。この時期、釣れる確率が多いのは、8号線より下流だろうと思いますが、確率より面倒くさい方が勝ることはままあります。今日のツアラーのテンションからすれば、当然面倒くさい方が勝ることは明白です。
ツアラーはそのまま五松橋の左岸側土手に車を止めて、釣り支度を始めるのでした。

五松橋下流の左岸は浅くて、フライフィッシング向きであります。
ポイントとしては、五松橋直下の二分された流れが合流する所と、送電線が川を横切った下流のプールの開きが良さそうに見えます。
特にプールの開きは、魚が遡上するタイミングと合えば、必ず釣れるはずであります。
釣り堀ツアラーはやります。その頭から、開きまで、途中相当な部分はスルーしますが、全部やるつもりであります。
ロッドは長いのを持つのが面倒だったので、12ftの7~8番です。それにエアフロのデルタシューティングヘッドを付けております。
正直言うと、北海道のアメマス釣りに行ったとき、そのままなんです。
今年は除雪に明け暮れ、釣り道具の管理を全然してないのです。どこへ何を仕舞ったのか忘れてしまい、一番最後に釣りをした、その道具がそっくり一式あったので、エーイ面倒と、そのまま車に押し込んで来たのであります。
北海道の川と川の規模が全然違うから、本当はもっと長いロッドと重たいラインを使うべきなんだろうけど、そのままです。この辺りにも、面倒くさいを連発する今回の釣り堀ツアラーのやる気のなさが如実に現れているのであります。
フライだけは、池が雪に埋もれて暇だったものだから、数本ばかり新作を巻いてあります。もちろんそいつを使ってます。ってか、ビニール袋にぞんざいにフライを突っ込んで、そのまま持って来ただけ。他にフライは持っていないのです。
しかし、そのフライは水の中では怪しく揺れ動き、ラインの少しの変化にも反応する素晴らしい、言っときますけど、素晴らしいと思っているのは、私だけですからね。魚も他の誰も、感心はしてくれません。けど、私は「このフライを拒める魚はいない」と確信するのです。

さて釣りです。
五松橋直下の合流点から丁寧にやりました。バックがないからシングルスペイです。
デルタシューティングヘッドはよく飛んでくれます。スペイラインの太いやつは、水に落ちるときにルアーより大きな飛沫をあげますが、このヘッドはスッと水中に入っていきます。そういう意味では、水深のないこういうポイントには向いているのかもしれません。
フライは私だけが「このフライを拒める魚はいない」と確信する素晴らしいフライ。ラインが水面に与えるインパクトも最小。キャスティングも全くトラブルなし。
そこにサクラマスがいれば、私のフライを拒むことはできない。私だけがそう確信するのであります。

五松橋直下の合流点付近を丁寧に釣ったツアラーは、そこから送電電が川を横切ったその下のプールの開きへ移動します。途中、細かいポイントが何カ所かありますが、無視します。
開きは見た目、流れが速く見えます。ですが、川に立ち込んでみると、そうでもありません。フライを流してみても、伝わる流れの抵抗は、大したことがありません。
ここから下流は川が二分され、白波の立つ瀬になります。その瀬の速い流れをヒーコラいいながら遡ってきたサクラマスは、この開きで必ず一息つくはずであります。その一息ついているサクラマスの視界に私のフライが入ったとしたら、どうでしょう。彼は私のフライを拒むことはできない。そう思いませんか。
ツアラーは川に立ち「ムフフ」と、一人気持ちの悪い笑いを浮かべるのです。←フライを拒めないとか言うけど、それにしちゃ、いつも釣れないよね。
サクラマスは私のフライを拒まないけど、それは受け入れちゃうということで、仲良しにはなるだろうけど、攻撃したり、噛みついたりはしないんです。←汗。

淡々とフライを投げて回収してまた投げて。
プールの開きは水深が浅いから、サクラマスさえそこにいれば、釣れる確率は高いと思います。
「サクラマスが差し歯、釣れるんだけどなあ」とツアラーは独りごち、そして「差し歯?入れ歯の間違いだろう」と一人で突っ込みを入れるのであります。
また、河原のネコヤナギを見れば、「柳の下にサクラはいるか、ドウジョウ。了解。やはりおりません、ドウジョウ」などと言うのでもあります。
サクラマスのフライフィッシングは、アタリも何もなくて、ただ淡々とフライを投げて回収してまた投げてを繰り返すばかりなので、ついつい独り言が多くなります。←そういう下らないことばかり言うから釣れないんだよ。
御意。

そうこうと釣りをすること数時間。
コソーッとアタリがありました。
それはタバコに火を点けようとしていた時でした。
ロッドを脇に抱え、タバコを咥えて背中を風上に向け、両手でライターの火を覆って、タバコに火をかざしておりました。
「???」抱えているロッドに、水とは違う抵抗を感ずるのであります。フライは完全に流れきり、岸際の膝ほどの水深にあるはずです。
ツアラーはタバコに火を点けるのをやめて、ロッドをソーッと起こします。
ロッドに重さを感じました。半信半疑でもう少しロッドを起こすと、明らかに生命反応があります。
ツアラーはそのままロッドを起こしました。その先に付いていた魚は、急に暴れ出し、水面に背中を出すのであります。
真っ黒で大きな背中でした。お腹まで真っ黒。
この腹黒い魚を見た途端、力が抜けるのを憶えます。明らかにニゴイ。それも特大です。
対岸にはルアーの釣り人が数名おられます。その方達が、この魚とファイトするツアラーを見たらどう思うでしょうか?
遠目ならニゴイはサクラマスに見えるでしょう。
幸いと言うべきかなんと言うべきか。その魚はそれっきりで、私のフライから逃げていきました。
私のフライは、サクラマスどころか、ニゴイまで拒むことはできなかった。
尚一層、フライへの信頼を深める、釣り堀ツアラーでありました。

今週は土曜の放流になります。